「ぶらんこ」








「ね、和ちゃん」
「はい?」

「ちょっとだけ、寄り道していかない?」


目は合わなかった、声だけが聞こえた。咲さんがはにかんだみたいに笑ってるのが、見えた。ほっぺたの辺りが、柔らかく緩んでいた。
だから、だからってことにしておこうと、私はあとで自分に言い訳をつけたのだ、だってそのとき咲さんがあんまりすてきに笑っていたものだから。
テスト前なのに、とか、そういうばつの悪い理由は全部ほったらかしにして、私はだめかなって足を止めている咲さんに向かって、頷いて返したのだ。

「ありがと、じゃ、行こっ」
「は、はいっ」

その後でも咲さんがちょこっと笑っていたのは、私の頷き方がまるでわくわくしきったこどもみたいだったからなのか、どうだったのか。
すぐに振り返って歩き出した咲さんの耳は、相変わらずなめらかにさらりと揺れた短い髪にも隠れてしまっていたから、それが赤かったかどうかなんて、私にはわからなかったのだ。
私がその背中をついじっと見てしまったのは一瞬で、早く追いかけなきゃって思った足は自然と歩き出していた、横から挨拶の声が掛かったのに返しながら、咲さんを追いかける。
行こう、と言ったきり咲さんがもう一度振り返ることはなくて、なんとなく私は彼女に並ぶことはしないで、一歩くらい後ろをついて歩いた。賑やかな玄関先を抜けて、外へ。

「うわー……そと、寒いねぇ」
「そうですね、まだすこし」

むせ返るような、冬の匂いがした。







どこに行こうかなぁ、と咲さんが呟いたのは歩き出してから暫くのことで、完全にその言葉に不意をつかれた私は、思わずぎょっとして躓きかけた。
のんきなんだかよわきなんだか本当によくわからない咲さんが、大丈夫、なんて慌てた声を掛けてくれる。心配は嬉しいです、嬉しいんですけど。
だってあなた、今の今まで、なんの迷いもないふうに歩いていたっていうのに。

「ど、どこか目的地があったわけじゃ、なかったんですか……?」
「えっ、ううん、ぜんぜん……あ、足、くじいたりしてない? 大丈夫?」
「大丈夫ですけど……大丈夫じゃ、ないですね……」

テスト勉強に疲れたわけでもなく脱力感を味わうことになるとはちょっと驚きだ。予測できない出来事には少々弱い自分には、なかなか辛い展開ではある。
それにしたって、校門を出た時点で私達が帰る方向とは全く真逆に咲さんが歩き出したものだから、てっきりなにか目指す場所があるんだと思ってたんだけど。
なにかとても違う方向で心配の目線を向ける咲さんに、それは大丈夫って示すために爪先をとんとんと地面に打って見せた。がそこは知らない道路だった。
学校のまた向こうなんて来る機会があまりない、この先の景色もたぶんぜんぶ私は知らないのだろう。

「……えっと。それで、今から、どうしましょうか?」
「うー……ん、そうだね……とりあえず」
「とりあえず?」
「あっ、あっち」

しばらくあっちこっちきょときょとと見渡していた咲さんは、けれどそんなときも運は味方してくれるのか、すぐに目的のものを見つけたように指差した。
なんだやっぱりなにかしら目指すものはあったんだ、と思って、少なからずほっとしながら咲さんのひとさしゆびの向こうを追って。

「……え、え?」
「ほら、さむいから。ね、行こ、和ちゃん」

追って、再度脱力。
このひとは、なんでしょうね、私のこと、立てなくでもしたいんでしょうか、ね。



なんて言っている間にもやっぱり咲さんはとっとこ歩き出してしまっていたわけで、知らない道だとつまり私は彼女の背中を追うしかないのだ。
寒い、寒いといえば、寒いけれど。今日はとくに、気温に加えて冷たい風がひっきりなしに吹いていて、コートとマフラーの隙間からでも冬を運んでくる。
もっとも咲さんの後ろを歩くと、白い息とか、少しまぶしくなる匂いとか、そんなものまで運んでくるから、あったかいんだか、さむいんだか、わからなくなるけど。
ああでも、今はそうじゃなくって、ええと、あなたの目的地は、自動販売機、だったんですか。

「えっと……えーっと……あれっ?」
「……お財布?」
「……忘れちゃった」

ああ、もう、だから、このひとは。
なんて思いながら、本当に脱力だって思いながら、どこかではばつが悪そうに笑う目の前のひとに、じぶんの奥のどこかがきゅっとしていたりするのだから、不思議な話だ。
だけどつられてほんのちょっと私の顔まで緩んでしまうのはやっぱりどきどきするくらいほんとうのことで、二人目が合ったら、やっぱり、笑ってしまって。
いちばんばかばかしいのはこの道程じゃなくて私なのかもしれないな、と思いつつ、しょうがないひとですねなんて言って、鞄を漁って。

「……あら?」
「え、もしかして」
「うっ、えっと……お、おかしいですね……」

何か伝染してしまったのかもしれない、まさか気付かなかった、そういえば今日一日存在を確認した覚えがない。
でもペンケースの下を見ても、教科書の隙間を一冊ずつ見ていっても、見つからないものは見つからない、わけで。

「………」
「………ふっ、あははっ」
「もう……お互い、バカですね、ふふっ」




結局のところ私達は並んでいるのだから、きっと二人でバカだねって笑っても、それはそれで、ぴったりだったりするのだ。








「あっ、待って! 100円、確か……」
「はい?」
「えっと、こっち……じゃなくてこっちだっけ、ええっと……あ、やっぱり!」

ぱちんと手でも叩きそうな勢いでもって咲さんが嬉しそうに笑ったのはそのすぐあとのことで、私がぼんやりとかわいいなあなどと考えている間にも、彼女の足は自販機へ向かっていて。
すっかり呆けている私のもとに戻ってきたそのときには、咲さんはすっかりとまぶしい顔で笑っていたのだ、満足満点、彼女の手には、ホットココアが一本。100円でも、買えるんだね。
どうやらポケットに小銭が入っていたことを思い出したらしい、きちんと財布に入れないとだめですよって一言言うところなのか、買えて良かったですねって言うところなのか。

なんて頭では考えていたものの、本当のところ、あったかいねって笑う咲さんでこっちはあったかいどころじゃなかったということで、つまり私は黙って頷いた。それしかできなかった。
ああ、でも、温かい飲み物が欲しかった彼女のもとに、それが手に入ったのは、やっぱり、すごくいいことのように、思えて――。

「ん、じゃあ、はい、和ちゃん」
「良かったですね……って、え?」
「ココア。あれ、嫌いじゃなかったよね?」
「は、はい、そうです……けど」

「良かったぁ、苦手だったらどうしようかと思っちゃった……寒いから。あげる」

あげるって、だってあなた、あっちって指差したその理由は"あなたが"寒いからってことじゃなかったんですか、主語、主語が迷子だった、そういえば。
それじゃあ財布を一生懸命探したのも、三つくらいポケットをまさぐってたのも、100円があってよかったってあんなに眩しく笑ってたのも。
ひとつひとつ思い出さなきゃこんなにくるしくならないってわかってるくせに、そんなときだけ私の記憶はひどく鮮やかによみがえるのだ、くらくらしそう。
差し出されたのを受け取ったのは殆ど反射的な反応で、手のほうまで意識を持ってく余裕がなかった私は、指先に触れたあたたかさにびっくりして。

「……って、これ、あなたが買ったんじゃないですか! 寒いのはお互い様です、受け取れません」
「えっ、私? 私は、うーん……あっ、そう、喉! 乾いてないし、いいよ」
「私のときと目的がひっくり返ってます!」
「んー……でも、ほら、和ちゃん付き合わせてるの、私だし。って、そういうんじゃないけど、とにかくね」

咲さんの視線がふっと上に行く、考え事をするときひとはそうするらしい、もう一度私に向いたとき、それはちょっとだけ、揺らいでいた。きれいに、揺らいでいた。
ずるい、このひとはずるい、知ってるのか知らないのかなんてもう関係なくって、ずるい。揺らいだ目線からは逃げられなくて、からだがかっと熱くなるのが、わかる。


「和ちゃんにあげたいなって思って買ったから、もらってくれると、うれしいな」

「……で、でも」
「じゃ、代わりに……ね、あったかいの、おすそ分け」


そんな風に言って、少しつめたい両手は私が握った缶ごと私の両手を包んだのだった、ゆびさき、ふれて、あなたが、笑う。
おすそ分けどころの話じゃないんです、あったかいどころの話でもないんです、狭まった距離はほんの少し、早まった鼓動は私の息を止める。
くっと飲み込んだのは、でも、吐息だけじゃなくって、自分でもなんだかわからないそれは、胸の奥でじわりと染み込んで、かすかな痛みを、震えのようなあたたかさを、滲ませる。


「ここじゃ、なんだし……公園でも、行こっか?」
「ふぇっ……あ、いえ……ち、ちかくに、あるんですか?」
「ん、たしかそうだった、と思う」


言って、歩き出すそのときに手は離れた、それはそうだ、そのままじゃ歩けない、でも。
冷たいっていう感覚は温かいの反対だから、さっきまであんなに扱ったから、こんなに寒いんだ、私と咲さんの間、風がふっと抜けて。
あ、と思って、もしかしたら口にしていたのかもしれない、わからない、ただとにかく、あ、と思った。ココアはまだ温かい、でもそうじゃ、なくて。
そうじゃないなら、なんだったんだろう。貰ったココアを右手に、左手をぎゅっと握った、こころに生まれたものを押しつぶすように握った、けど。

「和ちゃん」
「あ……はい?」

けれども、今日一度も振り返らなかったはずのあなたは振り返って、一歩二歩前じゃなくて、私の隣に並んだ。風が変わったような気がした、となり。
咲さんは私に呼びかけたきり何も言うことはなくて、ただ、ただそうだ。

ただ、小指がふれた。
だから、最初に繋いだのは、小指。


「…………」


ふたり黙ったきりで、でも音のない言葉を、ゆびさきで交わす。ちょっとだけ力を入れる、咲さんからの答えがくる。心臓が喉の辺りでどくどくいってる、気がした。
もうちょっと、と思って、思ってたけど私の一歩より、咲さんの一歩が早かった。くるっとやさしく向きを変えた手のひら、冷たい指が、いっぽん、にほん、ぜんぶ。
ともだちのそれじゃなくって、もうすこし、深いかたち。風が、私と咲さんの背中にぶつかる。繋がった影が、知らない道の上、ながく、ながく。


「あったかい」


どちらからともなく、繋いだ両手に熱を感じたまま、つぶやいた。











幸運にも――案内人がちょっと地理勘に恵まれていない咲さんであるという分を考慮しての表現だ――暫く歩いていたら、目的地は見えてきた。
ココアが冷める前でよかったね、と咲さんは言ったけれど、たぶんココアの果たす役割なんかもうないような気がする。
といっても一生懸命買ってくれたのだから、ちょっと飲むのがもったいないくらいのものでは、あるんだけど。日暮れすぎの小さな公園は、がらんとしていた。
少子化ですね、なんていうのは、なんとなしに似合わない呟きだっただろうか。咲さんはくすくす笑って、いた。



公園のベンチに腰掛けて、暫くなんでもない話をした。麻雀部のこと、同級生の噂、授業での失敗談、お弁当に入ってた好きなおかず。ちょっと顔を顰めながら、今度のテストの話も。
ココアは結局私が飲んでしまったけど、おいしかった、とあんまり嬉しそうに聞いてくるものだから、なんだか、もう、いいのかもしれない。
寄り道と言った時点では何か目的があったのかもしれないと思ってたけど、咲さんの様子からすると、本当にただ寄り道をしたかっただけ、らしかった。よくは、わからない。





そうしている間に段々と日は沈みつつあって、街灯がついてココアの缶がすっかり冷え切ってしまった頃、私達は立ち上がった。そろそろ、帰りましょう。
でもあ、まって、と呼びかけられて、ついでにまだ繋がったままだった手も引っ張られて、私は足を止めた。咲さんは白い息を吐きながら、あっち、と指差す。

「……ぶらんこ、ですか?」
「うん。和ちゃん、ぶらんこって、乗ったことある?」
「ええ、と……まあ、はい」

随分、遠い記憶のような気がするが。でもそれは高校一年の私達だったらきっと同じ――はず、たぶん。無邪気な笑顔を見てると一抹の不安が過るけど。
しかして私をぶらんこの前まで引っ張ってきた咲さんの笑顔と指先から察するに、どうも、私に、乗って欲しいようだった。

「なんとなく、和ちゃんってあんまり乗ったことなさそうだなーって思って」
「ううん……まあ、そうかもしれません、けど……い、今ですか?」
「だめ? ほら、今なら誰も見てないし……その分取り返すだけ、乗ろうよ!」
「……よくわかりませんが」
「えへ、じゃあ、座って座って。私が揺らすから、ね」
「え、や、それはいいです……ひゃっ」

なんだか妙にはしゃいでいるふうに見える咲さんは私をぶらんこに座らせると、すぐに背中をそっと押した。きい、と揺れて、私のせかいもふっと揺れる。
びっくりして悲鳴を上げたわりには、小さな揺れだった。ちょっと恥ずかしくなってしまう。揺れて、戻って、もう一度。


「私ね、ちっちゃいころ、ぶらんこ、すごく、好きだったの」
「へえ……どうして、ですか?」
「なんだか……おっきく、漕ぐと、ね! 空でも、飛んでるような、気が、したのっ、それ!」
「きゃ……っ」

とん、とん、と背中を押してくれていた咲さんは、ついには驚くほど上手に、私を高く高く運んだ。足元がふっと空に投げ出される。ああ、こんなふう、だったのかな。
良く覚えてなくて、だからそれは懐かしいというよりは新鮮で、咲さんにとっては、どうだったんだろうか。押してくれてるからか途切れ途切れの言葉が、でもまだ、続く。

「ちっちゃいころは、ね! 私も、よく……背中、押して、貰ってた!」

少しだけ錆び付いているようにも見えるぶらんこはきいきいと悲鳴を上げ、咲さんの手とそれは私の身体を天高く運んだ、藍色の空に、両足がぶらりと揺れる。
空でも飛んでいるような気分、幼い頃の私もそうだったんだろうか、でもいまは、どうだろう。ぐいっと戻って、浮遊感にどきりと心臓は跳ねた、けれど。


――それはやっぱり、いつかの音とはもう、違ってしまったのだ。


「わ、わわっ、さ、咲さん、高いです、ちょっと、高いですっ」
「あははっ、ごめんごめん」


きい、きい、とぶらんこは揺れを小さくして、溜め息をついた私の顔を、少しほっぺたの赤い咲さんが、上からのぞきこんでいた。
ねえわたしたち、と、彼女が口を開いたのはその直後のことだった、上から降ってきた言葉が、ぽつりぽつりと私の鼻先に当たる。




「私達、あとどれくらい、一緒に居られるのかな」





冬になって春になったら、部長はもう麻雀部を去るし、学校からも居なくなってしまう。あのひとのことだから、悠々と大学にも受かって行きそう。
だけどその後私達が部長の普段に触れることはなくなって、何より部長を部長と呼ぶ事だって、きっとできなくなる。再来年になったら、まこさん。そのまた次になったら、私達だ。
錆び付いた鎖をきいきい鳴らしながら、咲さんはまだ緩やかに私の背中を押していた、黙ったきりだった。きい、きい、と揺れて、戻って。戻れば、咲さんの手が、背中に触れる。
今だったら揺れたっきり戻らないなんて事はない、行って、戻って、咲さんがいる。手の温度も、まだ忘れない。柔らかな空気は、そばにある。

「さいきん、ちょっと、それ、考えてて」
「……咲、さん」

静かな声だった。近くなって、遠くなって、また近くなって。溜め息というにはきっとあまりにも弱々しかったそれは、私のだったか、あなたのだったか。
ねえ、あとどれくらい、いっしょに、いられるのかな。頭の中で一度呟いたら、こころのどこかが、じくりと痛む。

ずっと一緒だって約束を交わすのはひどく簡単だ、ずっと一緒に居よう、またここに来よう、変わらず会おう、ずっとずっとって、口にするのは、ほんとに簡単。
だけどそれが指の隙間から零れ落ちていくのだって、私の想像もつかないくらいに簡単なのだ。きっとたくさん落としながらしか、ひとは歩けない。
守りたかったもの、大切にしていたかったもの、ひとつひとつ手放しながら歩いて歩いていく、そのくせひとつを選ばなければならない瞬間はいつだって唐突だ。
今までずっと一緒に歩いてきたもの、ずっと大切に握り締めていたものが、するりと手から零れ落ちて、何の音も立てずに消えていってしまう。

どんなにいま、いまぶらんこにしがみついていたって、私は、ずっとここには、いられない。



考えていたら、せかいはかすかに滲んでいた、いつかは羽が生えたみたいに飛び出せそうだったはずのせかい。
振り返っちゃいけないような気がしていて、だけど小さく揺れるぶらんこの上、私はやっぱり振り返りたかった、咲さん、でも私は、わたしは――。


「でも、今日和ちゃんと話してたら、まいっか、ってなっちゃった」

「咲さん……っ、は?」


なんて、そんなときでも、かっくりとあなたは、私の手から、力を抜いてしまうのだ。


「とりあえず……とりあえず、だけどね。いまが、すごく、幸せでね」


私もちょっとだけ不安だったけど、でも、そんな顔しないで、和ちゃん。揺れたぶらんこの上、やさしい顔がのぞいて、言葉は鼻先から、頭から、手から、染みる。
だいじょうぶだよ、ずっと、なんてむせきにんなこと、ねえ、私には、言えないんだけど。きい、と少しだけ強く揺れたぶらんこ、空気の匂いが変わった、背中は、まだ温かい。
そうしてまるで自然なことのように言うのだ、まるで咲さんの中ではそれが当たり前にでもなってしまったかのように、緩やかな風のように、あなたは言うのだ。




「和ちゃんと一緒にいたら、ね、いまが大切、って気持ちで、私は、いっぱいだよ」



今、今が過ぎていくそのなかに、私のこころいっぱい大事に思うあなたが、ただ、そこに、いるだけで。
あなたがそこに、ただ、いるだけで、私は、先の不安を考える余裕もないくらい、ほら、幸せに、笑えます。






「……っ」
「だから、先のこととかは……て、え、の、和ちゃん!? ど、どうしたの!?」


滲んでぼやけてくるしくなった、頬は冷たいけど、多分私から溢れてるのは、あったかくって、あったかくって、どうしたらいいかわからない、気持ち。
少しだけ不安になった自分がいちばん欲しい言葉がなんだったかなんて、私にだってわかりやしないのに、あなたはいつも、そんな私にぴったりの言葉をくれる。

おまけに――おまけに、そう、ぶらんこの上で、まるっきりこどもみたいなふうに泣き出した私を見て、たぶんあなたは、勘違いをした。


「え、えっと……じゃあ、うん、それでも約束、する!」
「っ、やく、そく……?」

「うん、あのね、もしなにか、なにかすごくひどいことがあって、離れ離れになってもね」




きい、と、ぶらんこはゆれた、あなたはそこに、もう居なかった。
きい、と、ぶらんこはゆれた、あなたはここで、きれいに笑った。


「ぜったい、私が和ちゃんのこと、みつけるよ」




ゆれて、ゆれたぶらんこは、私に優しいキスを、運んできた。







 

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